初夏の風が丘一面に広がる新緑を揺らす。穴水町旭ケ丘のワイン醸造「能登ワイン」の自社農場では、ワイン醸造用のブドウがすくすくと育っている。
六月上旬、ワイン畑を訪れると花が咲いていた。花と言っても花びらはなく、小さな白いひげのようなものが付いているだけ。ブドウは風を頼りに自ら受粉をする「風媒花(ふうばいか)」で、虫や鳥を寄せ付ける花びらは必要ない。ひげのようなものはめしべとおしべの集合体。奥ゆかしく「花」を咲かせ、人々を酔わせる実を付けていく。
花が咲く前に「芽かき」という作業がある。春になると木から新たな芽が出るが、理想の樹形を思い描き必要なものだけを残して他は全て取り除いていく。「ワイン造りには基本的な作業となる」とブドウ栽培を手掛ける製造課長の吉田穣さん(54)。取らずにおくとたくさんの芽が出てきて、中には果実が付かない芽もある。「樹液の流れも考えながらしっかりとした実がなるものだけを残し、栄養分を集中させる」と話す。
普通のブドウと違い、ワイン醸造用は垣根で育てる。一・八メートルほどの高さでワイヤが四段ほど張られている。つるがうまく上に伸びていくように調整する「誘引」という作業も六月初旬ごろにある。
膝下(ひざした)から腰ぐらいまでの高さの一番下の段は通称「フルーツライン」と呼ばれている。この部分に実がなっていく。今年は四月中旬ごろ、遅霜の影響で木の細胞の一部が死に、成長が思い描いたようには進まなかった。吉田さんは「違うところから芽が出た部分もあった。自然相手のもの。なかなか思い通りにはいかない」と、ブドウ栽培の難しさを語る。
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開花してから収穫まで約百日。その後、ワインの醸造が始まり新酒ができるまでの「一年間」を節目ごとに紹介する。 (森本尚平が担当します)
能登ワイン 2006年創業。穴水町旭ケ丘で3・5ヘクタールの広大な丘陵を活用し、約3000株のワイン醸造用のブドウを育てている。町特産品のカキの殻を土壌に活用しているのも特徴で、年間14万本のワインを生産する。日本の山ブドウとカベルネ・ソービニヨンを交配し品種改良した日本固有の品種「ヤマソービニヨン」を材料に仕込んだ赤ワインが人気商品の一つ。最近は甘い味わいのロゼワイン開発にも力を入れる。コンクールで金、銀賞を受賞し、日本ソムリエ協会が発行する教本に今年初めて能登ワインを紹介する一節が掲載されるなど、全国的にも評価を得ている。
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