真っ赤なドレスのジャズシンガーが、ピアノやフルートの音色に合わせて歌声を響かせる。演奏者たちのソロは、曲の旋律を飛びだそうとするように即興で音を作り出す。ステージ上から「もっともっと」とあおるように笑顔が送られ、ビールを手にした観客の背中が揺れていた。
十年以上にわたって静岡の地でジャズ音楽を発信し続けてきたジャズクラブ「浮月楼(ふげつろう)ライフタイム」(静岡市葵区)が、国内外の音楽家らの支援で七月、再スタートを切った。コロナ禍による経営不振で一度は閉店を決めたが、店の存続を望む支援者のクラウドファンディング(CF)が成功。静岡の地でジャズの灯を絶やすまいと、新たな業務形態も取り入れながら奮闘している。
「ジャズで稼ぐにはどうすればいいか知っているかい? その倍の金をかけるんだ」。ライフタイムの久保田隆(ゆたか)会長(66)は、自嘲気味にジャズを「不遇な音楽」と称し、ジョークを交えた。
◆売り上げ8割減
一流の音楽家によっては何億円と稼ぎ出すポップスやロック、クラシックと異なり、ジャズは技術の高さや歴史がある半面、一般の人々が触れる機会は多くない。それがジャズの閉鎖的な文化によることも、変化が必要なことも分かっていた。そんな中、コロナ禍で売り上げが八割以上落ち込み、今年一月、店を五月末で閉めることを決めた。
会員制交流サイト(SNS)に投稿すると、反響が相次いだ。常連客から「CFをやってみないか」という声が上がり、悩みつつも決断。過去に出演した音楽家らに呼び掛けると、国内外の三十人以上から、CFサイトに載せる応援メッセージが届いた。
その一人で東京を拠点に国内外で活躍するジャズピアニストのハクエイ・キムさん(46)は「音楽家たちからも愛される場所。洗練された空間で、伝説のジャズマンから、駆け出しの新人までが舞台に上がり、新しいジャズ文化を見せてくれる」と評する。
百十万円を目標に四月末から実施したCFは、わずか二日間で目標を達成。六月末までに五百万円以上が集まった。当初は半信半疑だった久保田会長も「信じられない」と喜んだ。
◆昼は有料新業態
七月に店を再開した。店内を改装し、昼間は有料で会社員らが打ち合わせやパソコン業務をできるスペースとして貸し出している。
夜のライブについても再開後、大きく変えた点がある。両替町通りに面する窓のカーテンを開けた。閉じ切っていたジャズの世界を、店の前を通る人たちに見てもらいたいという思いからだ。
七月中旬の午後七時。通りを歩く会社員が、カーテンが開け放たれた店内のライブを窓越しにのぞき込んでいた。
「今日もカーテンを開けるよ。もしかしたら、世界が新しくなるかも、面白くなるかもって」
緊急事態宣言中、夜のライブは週末のみ続ける。 (板倉陽佑)
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