さまざまな症状の患者が運び込まれてくる救急救命センターでは、一人ひとりの患者に対し、迅速かつ的確な治療が求められ、それに準じた対応を現場ではとっている。しかし、救命センターのスタッフにとって、“重症の熱傷患者”の担当になるのはあまり嬉しいものではないという。はたしてその理由は何なのだろうか。
ここでは、救急救命センターのリアルを執筆し続ける、都立墨東病院救命救急センター部長の浜辺祐一氏の著書『救命センター カンファレンス・ノート』(集英社)の一部を抜粋。ある医師が浜辺氏にこぼしたトラウマについて紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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仏壇のロウソクで火傷を負った高齢女性
「仏壇、ロウソク、やけど、とくれば、患者は、間違いなく後期高齢者だな」
「おっしゃるとおり、82歳の女性です」
似たような傷病者が、過去に何人も担ぎ込まれているからなあ、と部長が頷いた。
「ご本人の話では、仏壇の奥にある物を取ろうとして右手を伸ばした時に、上着の袖口にロウソクの火が燃え移ってしまい、ご自分で消そうとしたらしいのですが、利き手が右だったために……」
「慌てちゃったんだな、きっと」
「……階下にいた息子さんが、悲鳴を聞いて駆けつけた時には、すでに、背部に火が回ってしまっていたということでした」
「そうか、着ていた上着の素材にもよったんだろうが、そりゃまあ、しかし、何ともかわいそうな話だよなあ」
危ないから、仏壇にはロウソク型の電灯を使うようにって、消防署や行政なんかでは指導しているはずなんだけど、線香を燻らすには、やっぱ、火が要るからなあ、と訳知り顔に部長がため息をついた。
「既往歴は? 何かあるの」
「いえ、特に、これといったものはなく、現在、高血圧の薬だけを服用しているということでした」
ADL(日常生活動作:Activities of Daily Living)は、どうなんだ、と部長が続けた。 「息子さんの話ですと、さすがに最近では、年齢相応に衰えてきているようだが、身の回りのことは、すべて自分でできているんだと」
「そうだよな、2階にある仏壇で、1人でちゃんと手を合わせることができているんだからね……」
部長は、そう言いながら、怪訝そうな顔を見せた。
「いや、しかし、受傷は昨日の午後早い時間なんだろ、よく息子さんが家にいたよね」
「はあ、母親である患者さんと同居されているということなんですが、昨日は、たまたま仕事が休みで、息子さん、自宅で過ごしていたそうです」
「ラッキーだったねえ、そりゃあ」
だってさ、息子さんと2人暮らしなんだろ、もし、その時家に誰もいなかったとしたら、ひょっとして、家まで燃えちゃってたかも知れないんだぜ、と部長が応じた。
からの記事と詳細 ( 「他人様の人生の最晩年を、とんでもない形にしちゃった…」救急救命センタースタッフが明かした高齢患者治療の“トラウマ”とは - 文春オンライン )
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