北京五輪後初の実戦となった高梨沙羅(25=クラレ)が、合計291・5点で逆転優勝を果たした。スーツ規定違反による失格があった2月7日の北京五輪混合団体以来の復帰戦で、130メートル、132メートルの好飛躍を2回そろえ、失意からの復活を果たした。今季2勝目、男女歴代最多記録を持つ通算勝利数を62に伸ばした。

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高梨に笑顔が戻った。表彰台の中央でスキー板を掲げて優勝を喜んだ。約1カ月ぶりの試合で1回目130メートルの2位につけ、2回目は132メートルに伸ばして逆転の復活V。「久しぶりに飛べて、純粋に楽しいという気持ちで試合に臨めた。五輪の後ということもあり、今までの中で一番うれしい優勝になった」。当日の朝、急きょ出場を決断した試合で、北京五輪個人ノーマルヒルで銅メダルのクリジュナル、金メダルのボガタイを抑えた。

涙の北京五輪からのカムバックを果たした。2月5日の個人戦で2大会連続のメダルを逃して4位。「もう私の出る幕ではないのかもしれない」。さらに同7日、新種目の混合団体では1回目に103メートルの大ジャンプ後に太ももまわりのスーツのサイズが規定より2センチ大きいと判断されて失格。得点が無効となり、責任を感じて泣き崩れ、立ち上がることすらできない状態でもチームメートらの励ましで2回目を飛び、チームは4位と健闘した。

絶望からはい上がり、再び飛ぶ勇気がわいたのは、応援による後押しを受けたから。混合団体の翌日に、自身のインスタグラムで謝罪文を掲載すると、6万2000件以上のコメントが集まった。「たくさんの方々のメッセージに励まされ、支えられて、今ここにやっと立つことができた」という。

仲間も復活を喜ぶ。混合団体のメンバーだった佐藤幸椰は自身のツイッターで「メンタルお化けだわ(良い意味で言っております)」と祝福した。同じくスーツ規定違反による失格になったアルトハウス(ドイツ)は新型コロナウイルスの陽性判定によりこの日欠場したが、自身のインスタグラムで高梨を抱き締める写真とともに「とてもうれしい。おめでとう」と投稿した。

高梨は自身の性格を「飽き性。ずっと同じことをしているのが苦手」と話したことはあるが「唯一ジャンプだけは自分に合っていて続けられている」。理由はジャンプが好きだから。北京五輪後、競技を離れて責任を取ることも考えたが、その気持ちを思い起こした。「やめることで責任が取れると思っていたけれど、それは自分の勘違いだった」。悪夢を払拭(ふっしょく)して再び戦う覚悟を決めた高梨は、強い。