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Sunday, March 27, 2022

<18>複雑で美しい形を追究 - 読売新聞オンライン

ikanghus.blogspot.com

 さわやかな木の香りに包まれ、「シュッ、シュッ」と かんな をかけるかすかな音がリズミカルに響く。吉野川にほど近い下市町下市の 米田こめだ 神具店の店舗に隣接した工房。鉋を使っていたのは、米田悟さん(23)。京都美術工芸大で木工を学び、卒業してまだ1年余りの若き5代目だ。

 米田さんの父、利次さん(65)、祖父、武司さん(84)はいずれも「神具・神棚」を作る県伝統工芸士。神棚を作る合間に、主に米田さんが「 神酒口みきのくち 」を作っている。

 神酒口は「 熨斗のし 口」とも言われる神具の一つ。神棚に供える御神酒 徳利とっくり に一対で差し、結婚式や上棟式などの祝い事に用いる。幸運を呼ぶ縁起物として、正月に供える人も多いという。古くから下市町や大淀町で作られており、上部は火、真ん中は水をイメージした形をしていて、米田さんは「燃える火によって けが れを はら う意味がある」と説明する。「眺めているだけで 敬虔けいけん な気持ちになりますね」

 木製だけではなく、竹製や金属製もあるというが、米田さんが作っているのは、吉野ヒノキ製だ。厚さ7ミリ前後の溝を刻んだ板を鉋で薄く削り、手で組み上げていく。真ん中は台の上で型にはめて丸みを作り、根元を糸で結んで形を整える。最後に下部に和紙を巻くとできあがりだ。

 1個作るのに20~30分かかるといい、米田さんは「細かい作業で手間がかかる。欲しいという人がいるから作っていますが、割に合いませんね」と笑う。

 幼い頃から神具作りが身近にあり、「楽しそうだなと思っていた」。大学卒業後、すぐに家業を継いだことにも「もともと物作りが好きだったので、まったく抵抗がなかった」という。「自分の家がやっているからではなく、神具作りに魅力を感じる」からだ。

 鉋一つとっても、刃を研ぎ、台を調節しないと使えず、道具があっても使いこなせなければ、物は作れない。「何から何まで全部できないとあかんのです。そうやって複雑で美しい形が自分の手で作り出せる。追究すればするだけ難しくなるが、それが楽しい」と笑顔をみせる。

 それだけに、様々な伝統工芸の後継者不足が不思議でならない。「こんなに楽しいのに……。物作りに興味を持っている人はたくさんいるはず。40歳代でも若いと言われる世界だが、若さを生かして物作りの魅力を伝えていければ」と力を込めた。(関口和哉)

  〈メモ〉  神酒口は4寸(長さ12センチ)が380円、5寸(15センチ)が480円、6寸(18センチ)が760円。いずれも税込み。これより大きいものも作れるが、要相談。米田神具店(0747・52・2738)で販売している。営業時間は午前9時~午後7時、日曜・祝日定休。

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