アイデアを形に──。どんなに素晴らしいアイデアも頭の中にあるだけでは価値を生み出さない。アイデアを「創造」する。創造されたものは「保護」することで尊重される。こうしてアイデアは社会で「活用」される。「知的創造サイクル」と呼ばれるこのプロセスは産業競争力を高める上で欠かせないものだ。そして知的財産教育の重要な柱でもある。
従来の知財教育といえば、特許の制度やルールを教える「保護」に焦点を絞った知識供与をイメージするが、「創造」から「活用」まで一貫して、実体験として会得することに挑んだ事例がある。学生が取得した特許で工業製品の商品化に成功した「ハトギプロジェクト」だ。
「ハトギ」とは刃物の研ぎ器のことで、発明者は沼津工業高等専門学校機械工学科5年生の鈴木涼太さんだ。沼津高専は、全国の高専の中でも知財教育に特色を持ち、全学科・全学年を対象とした知財学習のカリキュラムが組まれている。さらに課外活動の場として特別同好会「知財のTKY(寺子屋)」がある。鈴木さんは1年生のときからそのTKYに所属し、2017年のパテントコンテストに刃研ぎ器の発明を応募した。
沼津工業高等専門学校(静岡県)
このコンテストは高校生から大学生を対象に文部科学省、特許庁、日本弁理士会、工業所有権情報・研修館が主催するもので、優秀な発明やデザイン(意匠)は特許の出願支援を受けることができる。鈴木さんは優秀賞を受賞したことで、翌年に特許出願と権利化を行い、発明の「保護」を経験。いよいよその権利を「活用」するため、仲間に声をかけ、商品化を目指してハトギプロジェクトを立ち上げた。
20年、商品化に成功した彼らは再びパテントコンテストの表彰台に立った。同コンテストの作品が事業化された初の事例として、特許庁長官賞を受賞したのだ。ちなみに特許発明から生まれた工業製品が特許庁長官賞を受賞するのもこれが初。異例の初めてづくしで大きな注目を集めた。同好会顧問で電気電子工学科の大津孝佳教授は「学生のアイデアをもとに企業が商品化するのではなく、学生が自ら所有する特許権を使って工業製品化にこぎつけられたことが先駆的だ」と語る。
2020年のパテントコンテストで特許庁長官賞を受賞した沼津高専のハトギプロジェクトのメンバー(沼津高専提供)
だが、そもそもなぜ刃研ぎ器なのか。鈴木さんは小学生の頃から工作やキャンプが好きで刃物を扱う機会が多かった。「ぼくが気に食わなかったのは、刃物には長さがあって、カーブもあるのに、市販の研ぎ器では一様には研げません。刃の根本と先端では刃をあてる角度も変えないといけません。研ぐ人のさじ加減が求められます。だから、どんな人でも、刃物のどこを研いでも、常に同じ角度で、同じ切れ味になる研ぎ器が欲しかった。理想の研ぎ器を探し求めてもなかったので、自分で作るしかないと思いました」と話す。
そこで考案したのは、2つの面で刃物を挟むことによって刃の研磨角度を一定に保つことができる研ぎ器だ。並行に配置された2つのブロックが刃物の下でつながり、刃物は自由に動かすことができる。
では、鈴木さんはなぜ1人ではなく、チームで商品化する道を選んだのか。「ぼくはスケジュール管理が苦手で、授業の課題もパテントコンテストの応募もいつも締め切りギリギリになってしまう。商品化を進めるには、マネジメントしてくれる人が必要だった」と話す。大津教授からも「自分と違うものを持ったメンバーを集めなさい」と助言を受け、新たに5人を招集した。
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