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Saturday, April 9, 2022

家族の形 考える1冊 - 読売新聞オンライン

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 松山市在住の小説家・宇佐美まことさん(64)が1月、新作「月の光の届く距離」(光文社、税込み1870円)を出した。望まぬ妊娠をした女子高校生を主人公に、里親や特別養子縁組といった児童福祉の現状に光を当てた。宇佐美さんは「様々な家族の形、助け合いの輪があることを知ってもらいたい」と語った。(喜多河孝康)

 宇佐美さんは2007年、子育てが一段落した50歳で作家デビューした。人の暗い情念をたくみに描いた怪談、推理小説を手がけ、17年に「愚者の毒」(祥伝社文庫)で日本推理作家協会賞を受賞し、20年には前作の「展望塔のラプンツェル」(光文社)が山本周五郎賞の候補作となった。

 新作は、「展望塔――」で児童虐待を題材にした経験を踏まえ、里親制度に着目した。血縁のない他人が家族になる仕組みに興味を抱いて取材にとりかかり、複数の里親から体験を聞いて関連の資料を集めた。

 宇佐美さんは「親からの虐待などで壮絶な過去を背負わされた子どもが増えている」と感じたといい、「児童福祉の問題に興味がない人にも、小説だったら現状を伝えることができると考えた」と明かす。

 主人公は、17歳で望まぬ妊娠をした女子高校生とした。堕胎するには遅すぎ、両親や交際相手から見放され、自殺を考えて繁華街をさまよう。支援団体に保護された後、様々な事情で親と暮らせない子どもたちを里親として育てる兄妹と出会い、成長する物語だ。

 作中には、複雑な境遇に置かれた人物が次々と登場する。繁華街に居場所を求める少年、「援助交際」で生活費を稼ぐ少女、精子提供で子どもを産む母親。その一人一人の背景の描写にこだわることで、児童福祉の問題を中心に、家族のあり方を読者に考えてもらえる作品を目指したという。

 宇佐美さんは「登場するのは生きる希望を失った人ばかりだが、血のつながらない他人に救われ、恩返しをしようと前を向く」とした上で、「助け合いの輪が広がってほしいという思いを物語に込めた。児童福祉の問題に関心を持つきっかけの一冊になればうれしい」と語った。

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