このところ、北朝鮮によるミサイルの発射実験が続いている。米国がウクライナ問題でロシアと対立する中、多少の狼藉(ろうぜき)では米国の報復を招かないという計算であり、実際、それは的中しているといえる。しかし日本にとって北朝鮮のミサイルは、安全保障上深刻な問題であり、その対応をめぐって今回も各紙ではさまざまな意見が見られた。ただでさえ迎撃困難な弾道ミサイルが、変則軌道で飛ぶなど高性能化する中で、果たして撃ち落とせるのか怪しくなってきている。そうなると相手にミサイルを発射させないよう抑止することが重要になってくるが、抑止についても確実な手段は存在しない。
産経は自衛隊に反撃能力、つまり敵基地攻撃能力を持たせて北朝鮮を抑止することを主張しているが、朝日と毎日はそのような能力が専守防衛の方針からそれることを危惧し、反撃能力には懐疑的だ。さらに朝日は「日韓国内では、北朝鮮の挑発を敵基地攻撃容認に安易に結びつけようとする動きがあるが、立ち止まって慎重に考えるべきだ」と韓国の安全保障政策にまでクギを刺している。日経が「(韓国は)北朝鮮抑止のための反撃能力強化も打ち出した」でとどめたのとは対照的だ。
「日本も反撃能力を保有することで、北朝鮮による対日ミサイル発射を抑止すべきだ」という意見はそれなりにもっともらしい意見なのだが、問題は実際に攻撃することが可能かどうかである。既に北朝鮮は移動式のミサイル発射台を運用しているため、事前にミサイルの発射地点を割り出すことは相当困難であるし、そこにピンポイントで攻撃できるかも難しい。つまり敵基地攻撃は技術的なハードルが相当高い。そうなると従来の方針の延長で、ミサイル防衛の能力を向上させていくことが当面の目的となる。今回は「ミサイルへの対処能力を向上させることが重要だ」と指摘した読売の意見が妥当なように思える。
他方、防衛省が開発を進めているスタンド・オフ・ミサイルは北朝鮮を射程に収められる性能を持っている。このミサイルはもともと、対艦と離島防衛という専守防衛の目的で使用されることになっているが、運用次第で北朝鮮を攻撃することも可能となる。恐らく今年末に予定されている国家安全保障戦略など安全保障関連3文書改定において、このミサイルの用途についても言及されることになるのだろうが、国民の関心を高めるためにも、各紙でこのような抑止力についての議論を継続的にやっていただきたい。
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【プロフィル】小谷賢
こたに・けん 昭和48年、京都市生まれ。京都大大学院博士課程修了(学術博士)。専門は英国政治外交史、インテリジェンス研究。著書に『日本軍のインテリジェンス』など。
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