サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会が20日午後7時(日本時間21日午前1時)に開幕する。W杯は最強国の称号がかかった舞台であると同時に、テクノロジーの進歩が披露される見本市でもある。2018年ロシア大会ではビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が登場、カタール大会では人工知能(AI)を活用し「半自動」をうたうオフサイド判定が導入される。サッカーは人の感覚に依拠する定性的な部分が多くを占めるスポーツだったが、多種多様なテクノロジーの採用によって定量的なデータとの融合が進んできた。
森保一監督が「8強以上」を掲げてカタールに乗り込んだ日本代表。選手のコンディション維持のため5年以上前から、アスリートの体調をIT(情報技術)で管理するサービスを手掛けるユーフォリア(東京・千代田)の「ワンタップスポーツ」というアプリを利用しているという。
元はラグビー日本代表の体調管理のために開発されたもので、各競技で利用が広がる。選手が睡眠の状態や筋肉の張りなどを自己評価して入力、数値の変化を見ることで疲労度などを把握することができる。
サッカー日本代表では血液中の「クレアチンキナーゼ」の測定も始まった。これは筋肉の損傷の度合いを測る数値で、上昇した選手の練習量を調整することで肉離れなどの予防が期待される。今年に入ってからは睡眠の分析ができる指輪状の機器も導入した。全選手の睡眠時間や眠りの深さを把握し、トレーニングや体調管理に生かす狙いだ。
カタール大会は従来より日程が短縮され、1次リーグの全3試合を中3日で行う強行軍。コンディション維持の重要性が高まるなか、体にまつわるデータを複層的に積み上げている。ファンには不可解に思える選手起用があったとしても、実は確たるデータを論拠としているのかもしれない。
各国の代表チームや欧州のトップクラブが実装したテクノロジーは、やがて育成年代へと広がっていく。選手が装着する小型の全地球測位システム(GPS)端末はその好例だろう。
欧州からJリーグへと伝わり、いまでは高校の部活動でも採用が広がる。サッカー向けのGPS端末を販売するSOLTILO Knows(大阪・吹田)によると、今夏に開催された高校総体男子では出場52校の約3割が同社のユーザーだったという。
同社は元日本代表の本田圭佑選手が、欧州では一般的だったサッカー向けのGPS端末を「育成年代でも使えれば役立つはず」と思い立ったのが創業の原点。18年から営業活動を始め、僅か5年で国内の導入チームは300近くにまで増えたという。カテゴリーもJ1のクラブから小学校まで様々だ。
GPS端末で測定できるのは「走行距離」「スプリント回数」「運動強度(インテンシティ)」「乳酸参考値」など100項目にものぼる。個々の疲労度をリアルタイムに可視化できるほか、試合と練習の強度の比較、さらには印象や感覚に頼りがちだった選手交代の判断材料にもなる。「説得力のあるデータで指導者が選手を導くことができる。育成年代は費用面が課題になることが多いが、開拓の余地はまだまだある」(SOLTILO Knowsの松山祐樹氏)
カタールW杯では、スタジアムのカメラによって収集された走行距離やボールタッチ回数といったトラッキングデータが専用アプリを介して選手に提供されるという。パフォーマンスの可視化が個々のモチベーション向上やチーム戦術の変化につながる可能性もありそうだ。
体調管理やパフォーマンス分析、戦術の構築、そして審判の判定――。あらゆる側面にテクノロジーが入り込み、サッカーは少しずつ輪郭を変えている。一方、1986年メキシコ大会のディエゴ・マラドーナ(アルゼンチン)の「神の手ゴール」が今なお語り継がれるように、人間くささがにじみ出る「隙間」の存在がドラマを生んできたのも事実。果たしてカタール大会において人々の脳裏に刻まれるのはどんなシーンだろうか。
(木村慧、谷口誠)
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