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Monday, February 3, 2020

日常が断絶し、不安が形をとる短編集〜ブッツァーティ『怪物』 (2020年2月3日) - エキサイトニュース

 世界が抱えている根源的な不安を形にするとディーノ・ブッツァーティの小説になる。

 北イタリアの小都市ベッルーノに生まれたこの作家は、新聞記者として働くかたわら創作にも手を染め、多くの小説や戯曲を残した。彼の小説は時に寓話の色彩を帯びることも多く、突如として街中に出現した大穴を覗きこんでいるような居たたまれなさを読者に感じさせる。この欄でも何度か取り上げて来た東宣出版の未訳作品短篇集が第三巻の『怪物』でついに完結したので、この機会に既刊『魔法にかかった男』『現代の地獄への旅』と併せ、ぜひ読んでもらいたい。全18篇、どれも文句のない良作揃いだ。

 表題作は、ゴッジという家で家政婦兼家庭教師として働くギッタ・フライバーという女性が、不用品を片付けておく屋根裏部屋で恐ろしい怪物を見つけてしまうことから始まる。「棍棒のような細長い形をしていて、はっきりとした手足がなく」「頭頂部には、気味の悪い瘤が突き出ていて、目か口とおぼしき穴がいくつか開いて」いるという姿にまず嫌悪感を掻き立てられるのだが、もっと薄気味悪いのは怪物について話した家の人々がみな、ギッタが何か勘違いをしたのだと言って取り繕おうとすることだ。自分が見間違いをしたとは思えない家庭教師は、勇気を振り絞って再び屋根裏部屋に向かうが、扉には鍵が取り付けられ、中が覗けなくなっていた。

 世界の秘密を発見してしまった者が、そのために今までとは同じ自分でいられなくなる。確かな足場が急に消え失せ、たった一人で浮遊しているような感覚を味わうことになる。「怪物」とはそういう小説だ。この日常の断絶こそがブッツァーティ小説を特徴づける独自の感覚なのである。集団によるリンチの理不尽さを描いた「挑発者」の残忍さを見ていただきたい。行方不明の息子を雑踏の中で見かけたと思い、後を追いかけようとした教授が突如暴力の渦に巻き込まれてしまう。この小説は、カメラが引いて主人公から永遠の距離に遠ざかっていくような終わり方をするのだが、その構図が内容の非人間性をさらに印象づけるのである。


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February 03, 2020 at 05:36PM
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