インターネット上でプロジェクトを発表し、内容に賛同する人から資金を集める手法として普及が進んだ「クラウドファンディング」。日本では2011年頃に国産サービスが生まれ、その後も次々にクラウドファンディングサービスが登場。今では億単位の金額を調達するような巨大プロジェクトが生まれるほどの成長を遂げ、大手企業が新たなプロジェクトを発表する場としても活用されている。
一方、日本でのサービス開始から10年近くが経つ中で、クラウドファンディングの形も変わりつつある。特に家電やガジェットといったハードウェアの分野でその変化は顕著に表れている。
その変化とは「クラウドファンディングのECサイト化」だ。
クラウドファンディングの開始当初は「目標達成で集まった費用で製品を開発する」という、資金調達の印象が強かったが、最近では開発費には到底満たないような目標金額が設定されたプロジェクトが急増。プロジェクト終了から支援者へ製品が届く期間も数週間から数カ月程度と短いものが多く、消費者の体験としてはECサイトに近づきつつある。
こうしたクラウドファンディングのEC化を事業者はどのように捉えているのか。今回はハードウェアの取り扱いが多いMakuakeとGREEN FUNDINGに、クラウドファンディングの現状を伺った。
莫大な開発費を先に集められる「クラウドファンディング」
クラウドファンディングは、「群衆」という意味の「Crowd」と、「資金調達」という意味の「Funding」を組み合わせた言葉だ。
ハードウェアを開発するには部品調達や金型製作といった費用に加えて、製品を開発するエンジニアの人件費など莫大な費用が必要だ。従来であればこうした費用は開発者であるメーカーが負担するものだが、クラウドファンディングであれば先に製品の概要や試作品といった最低限の情報を公開し、「この製品が完成したら欲しい人」を募ることで、開発費用を先に集めることができる。
クラウドファンディングの成長を後押ししたのが、「All or Nothing」と呼ばれるクラウドファンディングの方式だ。これは、プロジェクトが掲げた目標金額に達成すれば製品を開発するが、目標に満たない場合は支援者全員に全額を返金するという仕組み。成立すれば製品が手に入り、失敗してもお金は戻ってくることで気軽にプロジェクトへ参加できるというメリットに加え、「目標を達成しなければ製品が開発されない」という思いが支援者の熱を高めるという要素も併せ持っている。
海外では2009年にサービスを開始したKickstarterがクラウドファンディングの代表的な存在だ。海外の流行を受けて日本国内では2011年に「READYFOR」「CAMPFIRE」といったサービスが次々に誕生。2013年には第2世代とも言うべき「Makuake」「GREEN FUNDING」が登場した。
同じクラウドファンディングでもサービスごとに特色があり、READYFORは災害支援や寄付といった支援の要素が強い。一方、MakuakeとGREEN FUNDINGは、冒頭で触れたとおりハードウェア関連のプロジェクト比率が高い。CAMPFIREはハードウェアに加えてサービスやファンクラブ的な仕組みも提供するなど、全方位型のサービスを提供しているのが特徴だ。
「応援購入」へ舵を切るMakuake
冒頭で触れたとおり、当初は開発費を事前に集める手法として注目を集めていたクラウドファンディングだが、国内では事情が変わりつつある。
ここ数年で増えてきたプロジェクトが、一から製品を開発するのではなく、海外ですでにクラウドファンディングを実施、もしくは発売されている製品を日本に持ち込むパターンだ。クラウドファンディングとして目標金額は設定されているものの、その金額は数十万円から100万円程度と非常に低い、または目標金額に関わらずプロジェクトが動く「All In」と呼ばれる方式を採用するなど、かなり「ECサイト」に近い。
こうしたクラウドファンディングのECサイト化を「当初から予測していた」と語るのが、Makuakeを運営する株式会社マクアケ 共同創業者/取締役の坊垣佳奈氏だ。2013年にサービスを開始したMakuakeは、その後2019年12月に上場。このタイミングでクラウドファンディングの「支援」という言葉を「応援購入」という言葉に切り替えた。
坊垣氏によれば、日本のクラウドファンディングの歴史は(2011年の)3.11にあるため、世界的な潮流と比べて寄付に近い傾向があるのに対し、海外のクラウドファンディングは当初からECサイトに近いのだという。こうした考えからMakuakeは「当初は海外(ECサイト)を意識しながらも日本に合わせた形(寄付)で展開してきた」。
ここ数年はMakuakeの期待通り、ECサイトに近い使われ方が主流になり始めたが、その結果として「一般的なクラウドファンディングのイメージとMakuakeの実態が異なりつつあある」(坊垣氏)。Makuakeの本質を伝えるための言葉が必要だと考えから、「クラウドファンディング」に変わる新たな用語を半年かけて検討。日本のクラウドファンディングに強かったという「寄付」の要素を「応援」という言葉に置き換えることで、「応援購入」という言葉が生まれた。
2019年12月の上場タイミングで応援購入という言葉を使用して以降、Makuakeでは「クラウドファンディング」という言葉自体は使わず、「Makuakeで買える」という直接的な表現が用いられている。「仕組みとしてはクラウドファンディングだが、我々としては『応援購入サイト』。メルカリをフリマアプリと言わないように、Makuakeもクラウドファンディングではなく、Makuakeという言葉がワーディングになればいいと期待している」(坊垣氏)。
EC化で生まれるクラウドファンディングのメリット
クラウドファンディングのEC化は世界的なトレンドだと語るのが、「GREEN FUNDING」を運営する株式会社ワンモアの沼田健彦代表取締役CEOだ。「KickstarterやIndiegogoでクラウドファンディングを成功したメーカーが、次の展開として日本のクラウドファンディングを選ぶ、という案件がここ数年で増えている」(沼田氏)。
クラウドファンディングの元祖的な存在であるKickstarterは、原則としてオリジナルのプロジェクトしか認めず、方式もAll or Nothingのみと厳格なスタイルだが、一方のIndiegogoはクラウドファンディングだけでなくECサイトとしても展開しており、さらにはKickstarterで成立したプロジェクトをIndiegogoでも出すことができる。「日本のクラウドファンディングが辿ってきた道はIndiegogoに近い」(沼田氏)。
海外製品を日本で販売する場合は、単に輸入すればいいというわけではない。輸送のコストはもちろんのこと、説明書やアプリ、本体表記などを日本語化するローカライズや、国内の認証を取得するといった各種費用が必要だ。「ハードの輸入は簡単そうに見えるが実際にはコストがかかる。日本展開のために必要なコストをまかなうためにクラウドファンディングが活用されている」と沼田氏は説明する。
こうしたEC化は、クラウドファンディングを初期から知っている人にとって「最近は新しいものがない」と嘆く声も多い。沼田氏も「リテラシが高い人からするとつまらないと思われる側面はある」と認めつつ、「ある程度完成した製品なので安心感が高い。開発が途中で頓挫するといった事故も少なく、プロジェクト開始から納品までのスケジュールも必然的に短くなる」とのメリットを指摘する。
筆者も、海外のクラウドファンディング発の製品が国内のクラウドファンディングで展開されているケースを何度も経験しており、あえて日本ではなく本家のクラウドファンディングを支援したこともあるが、いざ体験してみると沼田氏の言う「安心感の高さ」は大きな魅力だ。
海外のクラウドファンディングは当然ながら物流も海外ルートとなるが、日本の物流に比べるとトラブルも起きやすく、プロジェクトは無事完了して発送されたはずが手元に届かなかった、というケースも少なくない。こうしたトラブルも国内物流であれば問い合わせも手軽だが、海外の物流だとどこに問い合わせるかを確認するのも一苦労だ。
費用の面でも、本家のクラウドファンディングは海外から日本へ送るため送料が高くつくのに対し、国内であれば製品を一括で持ち込むことで1件あたりの送料が安価になり、トータルのコストは、国内の方が安くなることもある。
品質の面でも、初期ロットの不具合を把握し、時には改善した上で出荷できるため、初期モデルよりも高品質な製品を手に入れられるというメリットもある。国内で正しく使うための各種認証を取得するという安全性も考えると、新規性が低いというデメリットを上回るほどのメリットがある、というのが筆者の考えだ。
ECサイトとの違い。仕組みとしての「クラウドファンディング」
一方、クラウドファンディングのECサイト化が進むことで、ECサイトとの違いはどこにあるのか、という疑問も生まれる。
ECサイトではなくクラウドファンディングが選ばれる理由の1つとして沼田氏は、初回取引の条件がつけやすいというメリットを挙げる。純粋なECサイトの場合、仕入れのコストはバイヤー側が持つ必要があるため、仕入れ台数や価格といった取引条件での落とし所が付けにくいこともあるのに対し、クラウドファンディングであれば「このくらいの金額が集まればこの台数」という取引条件が設定しやすいのだという。
クラウドファンディングのユーザー属性も大きい。「日本のクラウドファンディングのユーザーは海外に比べれば厳しいが、それでも一般の消費者に比べれば、スケジュールの遅延や仕様変更といったトラブルに対しての理解度が高い(沼田氏)」。未発売のものをいち早く手に入れて試したい、いわゆる「人柱」的なユーザーが多いことも特徴だという。
GREEN FUNDINGのユーザーは新しいガジェットに興味がある層が多く、新着プロジェクトなどのリアクション率も高い。GREEN FUNDINGでは約22万人のメールマガジン会員を抱えているが、メールマガジンの開封率は20%近いという。「メルマガはあまり読まれないイメージがあるかもしれないが、GREEN FUNDINGではアクティブに動いている」。
マクアケの坊垣氏も「Amazonや楽天のようなECサイトは欲しいものをすぐ手に入れることができるが、Makuakeは毎日楽しいから見に来るというウィンドウショッピングに近い」と指摘。
Makuakeでは、製品のページの情報もECサイトより遥かに充実させ、「顔が見えてこだわりが見える。ストーリが見えるようにしている。消費者の好奇心に対して作り手の思いを伝えることで購買意欲につながる」と、プラットフォームとしてのクラウドファンディングの魅力を強調する。
大企業がテストマーケティングとして活用
現状はECサイトの要素が強まりつつあるクラウドファンディングだが、今後はどのような変化を見せるのか。1つの流れが冒頭でも触れた大企業の参入だ。
ハードウェアの開発費や人材で困ることはないはずの大企業がクラウドファンディングを活用するのは、製品のニーズを図る市場調査の意味合いだ。メーカーではさまざまな製品が社内で研究開発され、そのまま日の目をみることのない製品も数多くあるが、その大きな理由は「製品を出して売れるかどうかがわからない」ということにある。
その点クラウドファンディングは「この製品が欲しい」という消費者が実際にお金を払って意思表明をするという点において、市場調査として非常に効果が高い。
マクアケの坊垣氏も「完璧なメーカーブランドではなくテスト販売的な取り組みとして世の中に出せるという点で大企業のプロジェクトも増えている」と説明。JT、ライオンなどの企業のほか、自社で開発能力を持っているシャープやキングジムといったメーカーもMakuakeのクラウドファンディングを活用し、新たな試みのプロジェクトに挑戦している。
企業とのコラボレーションが多いMakuakeだが、「もともとのビジョンが産業支援。個人の活動を寄付で応援だけでは限界がある。新しいことにチャレンジする人を支援するから参加してほしい。お金の使いみちで、一番大きな『消費』の世界を、よりよい形に変えていきたい。ユーザーさんにも寄付よりもハードルが低い」(坊垣氏)という。
今後も企業との連携は強化し、大企業を担当する専用チームを結成。プロジェクトに対してコンサルティングを行なうキュレーター活動やプラットフォームの提供だけではなく、商品を出すための勉強会や試作品のユーザーアンケートなど、製品を世に出すためのバックアップも手がけている。
「未来の企画が集まるデジタル上の見本市」を目指す
一方、中国を始めとしたアジアとの関係性を強めているのがGREEN FUNDINGだ。沼田氏によればここ最近はアジア系のプロジェクトが非常に多く「月に70~80件はアジア系メーカーのプロジェクト」という状況だ。
こうしたアジアの勢いを活用するために検討しているのが中国拠点展開。すでに中国の深圳で日本進出のためのメーカー向けセミナーを開催したところ、100社以上のメーカーが集まるなど、日本進出への人気は高いという。
中国の日本展開をサポートするだけでなく、日本企業を中国メーカーへ紹介するという形での日本展開も支援。さらに、日本のメーカーが中国で展開するという逆方向の支援も行なうことで、中国を舞台としたハードウェア開発のエコシステムを実現し、新規性の高いガジェットが生まれる場所を創り出す。「クラウドファンディングは、未来の企画が集まるデジタル上の見本市、だと思っている」(沼田氏)。
クラウドファンディングの次のステージ
「応援購入」でEC化やビジネス支援に向かうMakuake、デジタル上の見本市を目指すGREEN FUNDING。さらに、寄付や支援に特化したREADYFOR、ファンクラブの仕組みも備えたCAMPFIREなど、仕組みとしては同じ「クラウドファンディング」であっても、サービスの性質は多様化してきた。支援する人とされる人をつなぐという基本的な形は変わらないが、この上で行なわれるビジネスの形はこれからも大きく変化していきそうだ。
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July 16, 2020 at 08:10AM
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「ECサイト化」するクラウドファンディング。変化する“支援”のかたち - Impress Watch
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