国道152号沿いにある倉庫を改修した「ライオンカフェ」のドアを開けると、温かい雰囲気に一変した。コンクリートの床やカウンターをプロの大工さんに任せた以外、奥にある木の床やペンキで塗った天井などは大勢の仲間と手造りしたという。
「シャッターを開けるととても気持ちのいい風が入り、水窪川の眺めも最高です」。新型コロナウイルス禍で残念ながら臨時休業中だが、ITエンジニアの夫凛太郎さん(41)と一緒に経営する冨士川亜希子さん(49)が店内を見せてくれた。
人口減少と高齢化が進む浜松市天竜区水窪町で子育て世代や若者が集える場をつくりたいと、二〇一八年二月、地元の老舗和菓子店「小松屋製菓」と協力してクラウドファンディングで資金を募った。一カ月余で支援は目標の二百万円を超え、五月に開店した。
◆オリジナルコーラも
現在は水窪の山で採れたクロモジ、キハダなど爽やかな香りのする葉を使った「クラフトコーラ」「薬膳スパイスカレーミックス」といったオリジナル商品をネットで販売し、都市部に住む人たちに山あいの生活の良さを伝えている。パッケージにも工夫を重ねる亜希子さんは「受け取った人がキュンとしてくれたらうれしい。男性も女性もリピーターが増えてきました」と手応えを感じている。
出資者の半数は地元の人だった。観光関連の仕事も手掛ける水窪タクシーの守屋孝社長もその一人。守屋さんは「人が少なくなった土地で新しい店を出すのはなかなか大変なこと。ただ、いきなりやって来て店を出すということでは全然なく、前から知っている人がやるから応援するという感覚でした」と振り返る。
◆首都圏から夫婦移住
夫婦で首都圏から移住してきたのは一二年。水窪は亜希子さんの母親の出身地で、子どもの頃住んでいた愛知県豊橋市から家族で訪れた印象も鮮明に覚えている。「小径(こみち)を歩いているときの空気のおいしさ、水窪まつりの熱気は今も変わらず感じます」。小学生の娘の子育て中で「子どもにとっては周囲の大人との隔たりがない。何物にも代え難い、一番素晴らしいことだと思います」。
一家は商店街にあった空き家を借りて暮らし、すっかり地域に溶け込んでいるようだ。もともと移住は、会社を辞めて独立したばかりだった凛太郎さんの希望だった。「田舎で暮らしたかったのと、やるべき仕事だけをやりたいと思っていました。それは家賃など固定費の少ない家計簿にすれば可能なことで、だからこそコロナのような不測の事態が起きても継続できているのだと思います」 (南拡大朗)
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