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Wednesday, July 13, 2022

環境先進企業の形、不動産で示す - 日本経済新聞

ikanghus.blogspot.com

「ホームグラウンド・渋谷の特産物は電気」──。こんな発言をする異色の不動産デベロッパー社長がいる。東急不動産ホールディングス(HD)の西川弘典社長。太陽光発電など自ら発電する再生可能エネルギー由来の電力は今や出力1329メガワットと原子力発電1基分を超え、将来これを2基分に増やすという。「環境保護に配慮した持続可能な街づくりこそデベロッパーの使命」と環境対応で不動産業界トップを走る西川社長は自任する。

「選ばれる企業」へ道開く

東急不動産HDは再生可能エネルギー事業では不動産業界のトップランナー。手を緩めることなく目標値を前倒しする。環境保護は世界的潮流、今後ますます加速するとの判断が背景にはある。

「今でも思い出すのが4年ほど前のオランダでの出来事。投資家向け広報(IR)で投資家を回ったのだが、その1社のなかである担当者に外に連れ出された。目の前のビルを指さした彼はこう言った。『ビルのてっぺんが見えるだろう。あれが海面の高さだ。私たちはそのはるか下に立っている。環境保護は企業活動の大前提だ』。当時、日本では環境経営と言ってもなかなか理解してもらえなかったが、すでに環境問題はヨーロッパでは切迫した問題だった。日本も今、あの時のオランダと同じ意識レベルにある」

「2030年度を達成年度とする長期ビジョンのスローガンは『WE ARE GREEN(ウィ・アー・グリーン)』。環境先進企業として『環境経営』の姿を着実に形にしていく必要がある。25年度までに温暖化ガスの排出量を上回る削減効果を出す『カーボンマイナス』を実現し、国際的な認定機関SBTイニシアチブ(SBTi)が認めるパリ協定の『産業革命前からの気温上昇幅を1.5度に抑える目標』の達成を目指す。全ての電力を再生可能エネルギーで賄うことが理想で、国際的な企業連合『RE100』の目標達成は当初の50年から2度前倒しし、今年中には実現させる。今後も環境対応に力を注いでいきたい」

運営する太陽光発電所など再生可能エネルギー由来の電力の発電拠点は計画中のものや、他社との共同運営分も含めると、全国で80カ所超になる。今後は発電所の数を増やすとともに新たに洋上風力発電などにも挑戦、発電方式の多様化を進めていく計画だ。

「再生可能エネルギー由来の電力の発電能力は現在、1329メガワット。25年度までに2400億円を投じ、2100メガワットに引き上げる。達成できればほぼ原発2基分の発電能力だ。今年策定した中期経営計画でも25年度までの営業利益を21年度(838億円)の1.4倍にあたる1200億円まで引き上げる計画にしており、このけん引役の1つとなるのが再生可能エネルギー事業だ」

「発電方式の多様化も急ぐ。4月には鳥取県米子市でバイオマス発電(5万4500キロワット)の営業運転を開始した。このほか洋上風力発電や地熱発電についても勉強を進めている」

不動産開発と再生可能エネルギー事業は親和性が高い。環境先進企業であり続けることは社員や地域住民のほか、株主も含めたステークホルダー(利害関係者)に報いる形となる。

「東急グループの設立に関わったのが渋沢栄一。渋沢は企業の公益性を説いたが、そのDNAはいまだに受け継がれている。田園調布の住宅開発を起点に、1980年代に始めた日本最大級の街づくりである区画整理事業『あすみが丘プロジェクト』(千葉市)、日本初の住宅とゴルフ場の複合開発『季美の森プロジェクト』(千葉県大網白里市)など、地元の住民や行政などと調整を進めながら公益性の高いプロジェクトを現在まで継続してきた。この手法とノウハウは巨大な設備と広大な敷地を必要とすることが多い再生可能エネルギー事業にそのまま生きる。環境先進企業の一つの形を不動産会社である当社が示していく」

「当社が足場を置くのは渋谷。IT(情報技術)関連のスタートアップや外資企業が集積しており、こうした企業は時代の流れを敏感に読み取る。入居するオフィスビルを決める際、デジタルトランスフォーメーション(DX)に対応できるスマートオフィスであることはもちろんだが、『環境への配慮』を条件とするケースも多い。当社が環境先進企業であり続けることは当社のオフィスビルや住宅がテナントに選ばれる道でもある。結果的にはステークホルダーにとってもプラスになり、企業としての生存条件だと考えている」

編集後記 地球と共生、事業の信念に

「もう社名からそろそろ『不動産』という言葉を外してもいいんじゃないかと思う時がある」。取材で西川社長は笑っていた。冗談めかしてはいたが、案外本気かもしれない──。そう思わせるほど東急不動産HDの環境保護への取り組みは真剣だ。「地球環境に配慮できない企業はいずれ市場(マーケット)から退場を余儀なくされるかもしれない」という。

東急不動産の初代社長だった五島昇は『環太平洋構想』を掲げ、パラオなど太平洋の島々でホテル事業をはじめとするリゾート事業を手掛けた。リゾート地をつなぐ航空ビジネスにまで手を広げたが、ここで学んだのは地域と調整しながら時間をかけて開発を進める手法だった。

それは今の東急不動産HDに引き継がれ、再生可能エネルギー事業にそのまま生きてくる。何より「地球との共生ということではリゾート開発も再生可能エネルギー事業も同じ」と西川社長は言う。

狙いは今のところ的中しているようだ。オフィスのリーシングは堅調に推移し、環境改善効果がある事業などに使途を絞った債券「ESG債」を使った資金調達も順調だ。環境を前面に押し出す街づくりという、東急不動産HDの手法が東京の新しい一つの未来像を示しつつある。

(前野雅弥)

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