「仕上がったデザインを見て衝撃を覚えました。ケースに穴が空いているデザインは初めてです」――腕時計の新モデル完成時をこう振り返るのは、カシオ計算機の荒井秀介さん(羽村技術センター 技術本部 企画開発統轄部 企画部 第一企画室 チーフ・プランナー)だ。
荒井さんが衝撃だったと明かしたのは、2022年8月12日にカシオが発売する「EDIFICE SOSPENSIONE ECB-2000」(ソスペンシオーネ ECB-2000)だ。「EDIFICE」(エディフィス)は、新世代のモータースポーツウォッチとして、世界中のモータースポーツファンはもちろん、多くの車好きの心をつかむモデルを次々に発表している。
そんなEDIFICEの新作ECB-2000がその名に冠するのは、イタリア語でサスペンションを意味するソスペンシオーネという単語だ。フォーミュラカーのサスペンションアームに着想を得たデザインのケースを使い、素材にはカーボンファイバー強化樹脂を採用した。
「ECB-2000は、モータースポーツやドライビングをこよなく愛する人にぜひ愛用して欲しい」――開発メンバー全員がこんな思いを共有している。性能に妥協しないモータースポーツの世界に触れ、その思想を受けて腕時計のデザインにも素材にもこだわったECB-2000の魅力を、開発陣に聞いた。
“生粋のモータースポーツモデル”である「EDIFICE ECB-2000」
ECB-2000は“生粋のモータースポーツモデル”といっても過言ではない。ECB-2000のプロモーションを行う、カシオでレーシングチームのスポンサー領域を担当してきた高橋保之さん(営業本部 マーケティング統轄部 時計マーケティング部 時計エリア企画課)だ。
高橋さんはこれまで、F1チームや国内レーシングチームなどとのパートナーシップの業務を手掛けてきた。スポーツウォッチの新しいイメージを模索する中で、こうした経験を活用している。「モータースポーツの魅力を感じていただけるクロノグラフに仕上がりました」(高橋さん)
実は高橋さんは、過去には休日にサーキットでレースをするなどモータースポーツの大ファンだ。国内のレーシングチーム「TOM'S」とのパートナーシップも築き、チームからフィードバックをもらい性能をブラッシュアップしていった。今回のECB-2000も、高橋さんの情熱が形になった腕時計だ。
「時計をデザイン」ではなく、「腕に着けるモータースポーツ」として開発
ECB-2000最大の特長が、フォーミュラカーのサスペンションアームをヒントにしたデザインだ。EDIFICEではこれまで、正確な時刻の表示やラップタイムの計測、ワールドタイム対応といった機能面でモータースポーツとの親和性を高めてきた。そうした機能が成熟した今回は、外装でも大きな進化を遂げた。
4カ所のラグの内部をくり抜いて、サスペンションの形状をイメージできるようにした。腕時計を上や横から見ると空洞になっているのがよく分かる。実際のフォーミュラカーで採用されているダブルウィッシュボーン方式(車のボディーからタイヤに向かって上下2対のアームが三角形に伸びた構造のサスペンション)を思わせるデザインだ。
「腕時計にサスペンションを盛り込むと聞いたとき『え?どのような姿になるの?』と疑問に思っていました。いざ実物を目にすると、どの角度から見てもラグ内の空洞が際立つ形状に美しさを感じました」――(荒井さん)
ECB-2000をじっくり眺めると、ラグから伸びたアームのような形状が文字板のX(エックス)状のパーツでも表現されている。これはサスペンション構造がむき出しのフォーミュラカーをイメージした表現だ。さらに右のリューズ(ボタン)からはエンジンのピストンを連想でき、見れば見るほど造形の細かさに驚かされるはずだ。
「今回は『時計をデザインする』という出発点ではなく、『腕に着けるモータースポーツマシン』という視点でスタートしました。フォーミュラカーから取り入れたいアイデアはいろいろありましたが、議論の末にマシンの性能を左右する重要なパーツの一つである“サスペンション“を採用しました」――こう説明するのは、ECB-2000のデザインを担ったカシオの田代篤史さん(技術本部 デザイン開発統轄部 グローバルリストデザイン室 リーダー)だ。
カーボンファイバー強化樹脂ケースを採用し素材にもこだわった
独特なデザインのECB-2000だが、こだわっているのは形状だけではない。「ECB-2000YPB」にはラグを含むケース全体に「カーボンファイバー強化樹脂」を採用した。EDIFICEシリーズでカーボン素材をケースに使うのは初めての試みだった。
カーボン特有のマットな質感と黒色が基調のベゼルに、深紅の数字が全体を引き締めている。ECB-2000はこうした徹底的な作り込みが光る腕時計だ。
フォーミュラカーと同じく極限まで無駄を削ぎ落として軽量化に取り組むに当たり、カーボンファイバー強化樹脂を使うことで耐久性を維持しつつも重量約62gという軽い腕時計を実現できた。
この新しい形状のケースの制作は、一筋縄ではいかなかった。樹脂からケースを成形するために特別な金型を作り、事前に樹脂の流れを解析して調整している。量産するためにカシオの技術を投入し、完成した腕時計だ。
文字板にデジタルウィンドウを採用 多機能を表現することが可能に
ここまで外装に注目してきた。ここで腕時計の“顔”でもある文字板にも注目したい。一般にスポーツウォッチというと、複数の針を配置したクロノグラフを連想するだろう。しかしECB-2000のアプローチは少し異なる。
ECB-2000ではカウントダウン用のインジケーターを残し、それ以外はデジタル表記にしている。デジタル表示を採用したことで、使える機能が格段に増えた。そして文字板の9時側の位置に、30分のカウントダウン機能を表示するインジケーターを配置し、特徴の一つにしたと田代さんは話す。
モータースポーツ関係者からの意見を多数取り入れた
開発陣の情熱が見え隠れするECB-2000は、実際にサーキットなどのレースシーンでメカニックやスタッフの要望を聞き取って反映した要素も多い。
例えば素材もその一つだ。EDIFICEシリーズは当初からレーシングチームのメカニックに使ってほしいと考えていたが、従来はケースやバンドにステンレス素材を使っており、作業中に重さを感じたり車体を傷つけたりする恐れがあった。カーボンファイバー強化樹脂で軽量化し、ソフトウレタン製バンドと組み合わせたことでその課題を解決した。
また1秒の誤差もない時刻を測る性能は、モータースポーツの世界で重要だ。ECB-2000は、Bluetooth通信で腕時計とスマートフォンを接続する「モバイルリンク機能」を備えており、「自動時刻修正」によって常に時刻の補正をしている。これがレースを支えている。
実際のレースでは、メカニックやエンジニアが1分1秒を争って作業している。グリッドでの作業スケジュールは運営側が厳密に管理しており、1秒でもオーバーするとペナルティーを受けてしまう。チーム全員で正確な時間を共有できる腕時計が不可欠といわれる中で、EDIFICEシリーズのモバイルリンク機能はレーシングチーム内で高く評価されており、ECB-2000もこの機能を継承していると高橋さんは説明する。
多機能なECB-2000は、スマホ連携で直感的に使いこなせる
このモバイルリンク機能と専用のスマホアプリ「CASIO WATCHES」を活用すれば、多機能なECB-2000を誰でも簡単に使いこなせる。ストップウォッチ機能で1000分の1単位のラップタイムを測ったり、そのデータをスマホに転送したりといった機能を直感的に操作可能だ。
多彩な機能の中でも「ワールドタイム」機能を使う様子を見てほしいと開発陣が薦めてきた。約300都市の時刻に対応し、アプリ上で都市を設定するとECB-2000の針が自動で動く。実際に動く姿を見た人の多くが驚くという。記事内では動画で紹介するので、ぜひ見てほしい。
「スピードが形になると美しい」 手に取って開発陣の情熱を感じてほしい
ECB-2000は外装も機能も、とことんまでモータースポーツの精神を腕時計として具現化すべく開発を進めた末に生まれた次世代のモータースポーツウォッチだ。その魅力は、実物を腕に付けて時計に目を落としたときに伝わるだろう。
「車がスピードを追求していく中で、その姿がどんどん変化しています。それを見て『スピード』が形になったとき、とても美しいと感じました。EDIFICEのコンセプトは『Speed&Intelligence』です。モータースポーツが磨き上げたものを、いかに表現するかが魅力であり、挑戦でもあります」(荒井さん)
「店頭に行って腕に付けてほしい、そしてモータースポーツの世界観や大人心をくすぐる感覚を味わってほしい」――3人は口をそろえてこう訴える。腕時計は、時間を知る道具であると同時に、身を飾るアクセサリーであり、自己表現をするステータスでもある。EDIFICEは、腕に着けることで「私は車が好き」「モータースポーツが好き」といった自分のアイデンティティーを表現できるものにするというカシオの思いが詰まっている。ECB-2000の実物をぜひ手に取って、開発陣の情熱と腕時計に宿るモータースポーツスピリットを感じ取ってほしい。
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