3日、2023JリーグYBCルヴァンカップ決勝を翌日に控えたアビスパ福岡のDF小田逸稀は、同大会の初優勝に向けて、決意を口にした。
今年で25歳になった小田は、プロ生活7年目。ここまでの道のりは、決して平坦ではなかった。
第94回全国高校サッカー選手権大会とインターハイの2冠を達成した東福岡高校から、鹿島アントラーズに加入したが、プロの壁にぶつかり、3年間でリーグ戦の出場はわずか8試合のみ。出場機会を求め、4年目にFC町田ゼルビア、5年目にはジェフユナイテッド市原・千葉へ期限付き移籍した。
J2での2年間の武者修行を終え、昨季は満を持して鹿島へ復帰。しかし、ポジション争いに敗れ、公式戦わずか6試合のみの出場にとどまった。「あらためて、すごいチームだと感じさせられた。もう少し試合に出て、チームの勝利に貢献したかったけど、残念だった…」。J2で培った自信は徐々に失われていった。
だが、出場機会が限られたなかでも、自分自身にベクトルを向け、貪欲に上を目指すことはやめなかった。コンディションを保つために、常に自己管理も徹底。本人は鹿島で過ごした日々を「悔しかったけど、自分の力を伸ばすことのできた、いい1年だった」と振り返る。
そして、迎えた今シーズン、ついに弛まぬ努力が実を結んだ。鹿島でのプレシーズンキャンプで手応えを掴めずにいたところ、アビスパ福岡からオファーが届く。「鹿島でなかなか試合に出られなくて、燻っていたところ、ありがたいことに声をかけていただいた」。小田は迷わず、新天地への移籍を決断した。
福岡に移籍して10カ月が経った今、あのときの決断は「正解だった」と感じている。今季はここまで、J1でのキャリアハイとなる28試合に出場。元々控えめな性格ゆえ、「段々と課題が浮き彫りになってきた部分もある。J1の洗礼を受けたなという感じ」と、自身の課題も謙虚に話したが、「最初から試合に出してもらって、序盤は自分でも納得のいくようなパフォーマンスを見せられた。自分のストロングポイントがJ1でも活かせることもわかった。プロサッカー選手になってから、1番充実したシーズンになっていると思う」と、頼もしく語った。
J1でコンスタントに出場機会を得たことで、自信が深まり、その自信はさらなる成長につながった。「チームメートも、監督も、スタッフも、サポーターの方々も、自分のヘディングの強さを期待してくれている。それで、すごく自信がついたし、自分が負けてはダメだなという思いが強くなった」と、充実感が溢れる表情で語る。そして、「素晴らしい人柄で、優しいし、1人ひとり選手のことを思ってくれる」という長谷部茂利監督のもと、より一層、「自分の特長を自信をもって発揮できるようになった」。
そんな大きな手応えを掴み、チームでの立場も確立した小田は、4日、アビスパ福岡の一員として、ルヴァンカップ決勝に臨む。
「鹿島のときに、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)のタイトルを獲得させてもらったことはあるけれど、当時は今と(チーム内の)立ち位置が違った。(明日勝てば)胸を張って、初めてタイトルを獲得したと言える。決勝の舞台に立てるチャンスがある今の状況は、すごくうれしい。本当に、選手としてずっと忘れられない日になると思う」
決勝の舞台は、キャリアのなかで何度立てるかわからない。そして、誰もが立てる舞台ではない。だからこそ「勝ちたいという思いが強くなる」。幾多もの苦悩を乗り越えてきた分、今、それを強く実感している。
そして、もう一つ。小田には勝たなければならない理由がある。
「凌我の分までという気持ちはあります」
東福岡高校時代の同級生であり、親友の佐藤凌我(アビスパ福岡)の存在だ。佐藤は今大会の準々決勝第1戦で全治8か月の大怪我を負った。佐藤の無念を背負った小田は、4日後に行われた準々決勝第2戦で1ゴール、1アシストの活躍を見せ、福岡を準決勝進出へ導いた。もちろん、決勝でも佐藤の思いを背負って戦う。
「凌我がケガしたあとの試合でも決めたし、決勝でもゴールを決めて、綺麗なストーリーを完結させたい。明日は絶対に勝って、美談にしたい」
これまで味わったきた悔しさと、“親友”への思いを力に変え、「胸を張って言える初めてのタイトル獲得」へ。小田は、佐藤とともに戦った第94回全国高校サッカー選手権大会以来となる決勝の舞台へ挑む。
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