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Friday, February 9, 2024

骨は本当は赤い? 硬いのに柔軟、体の形の謎に挑む 松尾光一さん:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル

ikanghus.blogspot.com

 まるで生卵を横にしたようなこの画像、何だと思われるでしょうか。

 これは、マウスの「ツチ骨」という骨の一部を、兵庫県にある大型放射光施設「スプリング8」で2009年に撮影したものです。東北大学との共同研究によるものです。

 ツチ骨は、鼓膜の奥にある「耳小骨」の一つで、キヌタ骨やアブミ骨とともに、鼓膜で受けた音の情報、空気の振動エネルギーを増幅し、内耳に伝える役割があります。

 私は骨について研究しています。耳小骨は全身の骨の中で最も小さく、ほかの骨に比べてより硬いという特徴を持っています。ひとつひとつの細胞や分子のような小さな単位ではなく、いろんな細胞が組織としてまとまって、統合された状態の骨の構造について調べる目的で、この画像を撮影しました。

 この図の青い部分は骨の基質と呼ばれる成分、緑は細胞が入っている空洞です。そして赤は血管です。より正確に言えば、血管が通っている空間を示しています。

 骨といえば白、というイメージがありますよね。でも、骨って、本当は赤いんですよ。生きている動物の骨には細かい血管がいっぱい通っていて、内側には血液細胞を作り出す骨髄もあるんです。

 骨は鉄筋コンクリートのようなもので、鉄筋に相当するコラーゲン繊維と、コンクリートに相当し、カルシウムとリン酸からなる「ヒドロキシアパタイト」で構成されています。どちらも、骨の原料となる物質は血管を通して供給される必要があります。

 骨について追究してきた私にとって、この画像は「骨には血管が大事!」ということを改めて教えてくれるものでした。いまでは血管に加えて、神経も大切であることが分かっています。

遺伝子制御の解明、出発点

 私はもともと、遺伝子の働きを制御する転写因子について研究していました。スイスの大学にいた1990年代の初め、オーストリアのウィーンの研究所で「破骨細胞のないマウスが生まれた」という情報に接して、その研究所に就職したんです。

 破骨細胞がないと、古くなった軟骨や骨の組織が骨の中に残り続けて、どんどん硬くなっていく「大理石骨病」につながります。

 私はこのマウスに関心を持ち、まずは破骨細胞の働きに欠かせない転写因子は何かといったところから研究を始め、それを解明しました。でも細胞や分子レベルの精緻(せいち)な研究を進めれば進めるほど、何か物足りなさを感じたんです。

 やがて、「全身にある、さまざまな形をした骨はどのようにしてできてくるのか」といったことに関心が向くようになりました。そして、骨そのものの形の研究へとシフトしていったのです。

 よく知られているように、破骨細胞が古い骨を壊す一方で、骨芽細胞が新しく骨をつくって、健康な骨の状態が維持されています。骨が壊されるばかりだと、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になってしまうわけです。

 健康な骨が成長する時にも、破骨細胞と骨芽細胞が絶えずコミュニケーションをとっています。その例の一つが、頭のサイズが大きくなることです。

 骨って硬いじゃないですか。でも、子どもから大人へと成長するにつれて、頭蓋骨(ずがいこつ)のサイズも大きくなっていきますよね。

 これについて、2018年ごろ、顔の骨に興味があるとして研究室に来た医学生が中心になり、調べました。頭の骨の内側は、徐々に大きくなっていく脳によって圧迫を受けます。

情報やりとり、周囲に合わせ変容

 すると、圧迫された頭の骨の内側が少しずつ破骨細胞によって溶かされていく一方で、外側の表面ではそれを補うように、骨芽細胞によって骨が形成されていくことが分かりました。

 ひざから足首まで伸びる腓骨(ひこつ)などでは(輪切りの図を例として示します)周囲にある筋肉などから圧迫されて形を変えていくことも確認されています。骨が部位ごとに様々な形をつくることができる要因のひとつです。

 周囲に合わせて形を変容できる。骨は硬いのに、なんて柔軟なんだと思いませんか。

 板状の骨の表裏にあって空間的に離れた破骨細胞と骨芽細胞がペアリングをする、具体的にいえば表面を壊して裏をつくったり、逆に裏面を壊して表面をつくったりするとき、どのように情報をやりとりしているのか。

 私たちは骨の表裏を貫く血管が関わっているのではないかと推測し、確認のための研究を進めています。

 いま、ヒトを含めた多くの生物で全ゲノムが解読され、分子の研究も大きく進展しました。でも、骨格などのさまざまな体の全体構造がどうやってできているのかは、まだよく分かっていません。

 全身の骨は、前から見て左右が対称、いわば互いに鏡像として形づくられています。

しかし、遺伝子の本体と言われるDNAの二重らせんは、右半身でも左半身でも、右巻きです。鏡像の左巻きはありません。体の表面に、さらさらした汗を出すエクリン汗腺も、表皮の中で右巻きのらせん構造を作っています。右半身でも左半身でも、です。

 小さな構造は鏡像の片方だけなのに、体全体としては左右対称の形を作っている。それはどうしてなのか。骨を起点にして、その普遍的な疑問に対する答えを示したいと考えています。医療にも直結する未解決で重要な課題だと思っています。(聞き手・田村建二

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