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Thursday, June 25, 2020

<お道具箱 万華鏡>鹿の子 かつら彩る宝石 再び - 東京新聞

かつらに鹿の子をつける歌舞伎床山の高橋敏夫さん

かつらに鹿の子をつける歌舞伎床山の高橋敏夫さん

 「こんなに長い間、休んだことないよ」。最近、歌舞伎の裏方さんと話していると、必ず出てくる言葉だ。コロナ禍のステイホームで、筆者も二カ月ほど自宅に閉じこもっていた。取材に全く出られなかったので、今回は番外編で、これまで「復元」した道具について書こうと思う。

 遅ればせながらの自己紹介になるが、筆者は「作れなくなった伝統芸能の道具」を復元する活動をしている。といっても、自分でモノを作るわけではない。道具が手に入らず困っている人と作れる人を仲介する、調整人みたいなものだ。

 最初に復元したのは「鹿(か)の子」だった。和菓子みたいな響きだが、歌舞伎のかつらにつける布の飾りの名称である。和装の帯揚げに似ていて、素材は極薄の絹。細かな絞り染めの粒が、ぎっしりと並び、手に持つとしゃりっとしている。花魁(おいらん)や裕福な町娘がよくつけているのだが、ぐっと華やかさが増す。

 初めて鹿の子を間近で見たのは二〇〇九年六月。歌舞伎床山(とこやま)の高橋敏夫さん(故人)を取材したときだった。緋(ひ)色、浅葱(あさぎ)色、鴇(とき)色、藤色。鹿の子が詰まった引き出しは、宝石箱のよう。興奮しながら眺めていたとき、高橋さんがぽつりと言った。

 「この鹿の子ね、もう作れる人がいないんですよ」

 衝撃だった。鹿の子は消耗品。白粉(おしろい)がついたり、汗で伸びたりして駄目になる。新調するルートが見つからずに思案にくれる高橋さんを見て、つい「手伝います」と言ってしまった。

 一年ほど駆け回り、京都絞り工芸館の協力のおかげでようやく平成版鹿の子が完成した。「面倒そうだけど、力になりましょう」と言ってくれるのは、ちょっと変わった面白い人ばかり。そういう人に出会えることも、復元活動の醍醐味(だいごみ)だ。(伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)

鹿の子復元の打ち合わせ。(左から)高橋さん、京都絞り工芸館の吉岡健治さん、吉岡信昌さん=2009年、京都市で

鹿の子復元の打ち合わせ。(左から)高橋さん、京都絞り工芸館の吉岡健治さん、吉岡信昌さん=2009年、京都市で

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