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Sunday, July 26, 2020

不惑を迎えこれからは、想像を形にする十年に。| Topics - Pen-Online

館名を掲げるのではなく、ブルーのネオン管でかたどった木のモチーフを建物の壁に複数配置して「青い木が集まった森」を表現し、サインとした青森県立美術館。変形させた書体をロゴに用いた東京・立川の複合文化施設「PLAY!」。菊地敦己が繰り出すデザインには、独特の「間」が存在する。昨年手がけた展覧会図録『野蛮と洗練 加守田章二の陶芸』は、日本のグラフィック界の最高賞と言われる「亀倉雄策賞」を受賞。造本計画だけでなく、編集、撮影、印刷すべてにデザイナーの力が発揮されていると評価が集まった。独自の路線を貫いてきた菊地は、これまでの道のりをどのように捉えているのだろう。

「いつもなにかをつくらなきゃいけないという焦燥感に駆られていましたね。つくっていないと、後ろめたさを感じてしまうんです」 

菊地の創作の姿勢は、最高のパフォーマンスを発揮するべくトレーニングを欠かさないアスリートのようだ。

「自分でも予想できないようなものがつくりたいんです」と菊地は語る。デザインに取りかかる時、もちろんある程度の方向性や仮のビジョンは掲げる。だが、作業していく過程で新しい道を探し、何度も横道に逸れたり迷子になったりしながら、結果的に自分がイメージできなかったゴールに到達することに手応えを感じるという。作業をすることに意味があると考え、ときにデザイナーの領域を超えた立ち位置を取ることさえある。

「言葉を自分で考えることも多いし、 編集者のように構成そのものを組み直すこともあります。分業が好きではないんです。非効率だと言われても、ほとんどの現場に立ち会ってプロセスを共有しますね。そうしないと、なんだか手抜きをしているように思えてしまうので」

企画に携わる一人ひとりのスキルを寄せ集め、全員参加でものづくりに取り組めば相乗効果が起きる。そのほうが、予想を遥かに超えた結果をもたらすことかができると考えているのだ。

「平面上に空間をつくり、情報を構成していく技術はあると思います」と、菊地は自身の才能を評価する。グラフィック・デザインにおいて、彼の目に見えているのは構成要素の配置だけではない。それらの間に存在する空気や奥行きを見出すことで、新しい情報の伝え方が生まれることを望んでいる。

「結果から逆算したようなデザインは、なにも面白くない。終わり方が決まっていない“オープンエンド”な存在が好きなんですよ」 

美術大学に進学し、3年で中退。デザイン事務所への就職も、先輩デザイナーに師事することもせず、独自のデザインの道を極めてきた。

「僕は、デザイン界の慣習に無知な“みそっかす”。だからこそ、デザインも既定の枠に収める必要がなく、自由に振る舞えたのかもしれません」

菊地が今後の夢と語るのは、90歳まで現役で活躍することだとか。

「近々の目標はある程度想像できるから、現実的すぎて気持ちもせこくなる。でも、半世紀先の自分はさすがに見えないし、選択肢は限りない。45年後の世界に同じようにグラフィック・デザインが存在するかどうかはわかりませんが、まだしばらくは練習が続けられそうじゃないですか。そんな感覚をもっていたいですね」

菊地は、現在45歳。これまで生きてきた倍の時間がある。「技術の積み重ねがセンスになる」と語る彼の表現は、これからも多彩に変化を繰り返していくのだろう。


Pen 2020年7月15日号 No.499(7月1日発売)より転載

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