「30年先、40年先のことでも、今からちゃんと計画しておかないとできない。それを放っておくのは、政治的な問題以外の何ものでもない」。日本原子力学会で福島第1原発廃炉検討委員長を務める宮野広(73)=流体振動、システム安全が専門=は、廃炉の最終形について議論が進まない現状に苦言を呈す。
日本原子力学会は昨年7月、東京電力福島第1原発の廃炉が完了し、敷地を再利用できるようになるには最短でも100年以上かかるとする報告書を公表した。政府の「中長期ロードマップ(工程表)」は、廃炉を30~40年後に終了するとしていたため、100年という試算は驚きを持って受け止められた。
報告は、放射性物質で汚染された廃棄物をどのように取り扱うか―という視点からまとめられた。通常の廃炉の場合、処分が必要な放射性廃棄物は解体物全体の数%とされる。しかし、事故を起こした福島第1原発は、汚染が広範囲に及んでおり、大量の放射性廃棄物が発生するとみられる。
学会は「原発の敷地を再利用できること」を廃炉の最終形に設定した。最短のシナリオは、溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出し完了直後から作業に着手し、原子炉周辺の機器や建屋、土壌などの全ての放射性廃棄物を敷地外に運び出すというものだ。
このほかにも、廃炉作業によって生じる廃棄物の総量や搬出量を抑えるため、建屋の地下部分などを残す場合も想定した。高い放射線量が減衰することを待つ「安全貯蔵」の期間を設けてから解体するパターンも考えた。それらは敷地の再利用までに百数十年から数百年かかる試算となった。
それでは中長期工程表で廃炉の最終形の定義はどうなっているのか。宮野は「廃炉をどこまでやるのかという定義は、あいまいなままだ」と指摘する。2019年に改定された中長期工程表の最新版を確認すると、廃炉の最終形を示していると読めるのは以下のような部分だ。
「廃止措置に関する事項は、30~40年後の廃止措置終了を目標に、燃料デブリ取り出し等の廃炉作業や研究開発等の進捗(しんちょく)状況を踏まえ、東京電力が第3期に定める」。第3期とは、デブリの取り出し開始から廃炉終了までの期間を指す。つまり、事故の当事者の東電がこれから決める―ということだけが書かれている。
宮野は「事故から10年。最終形の議論を始めることで廃炉の方向性が見え、今のステップ(段階)を決めることができる」と、改めて議論の必要性を主張した。
宮野は、最終形の決定が東電任せになりかねない現状にも疑問を投げ掛ける。「完了後の敷地を何に使うのか、地元の人たちにもさまざまな思いがある。地元の人を入れて議論していかないと、最終形は見えてこない」(敬称略)
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